本格的な夏休みシーズンを前に、急激な円安と多数のインバウンド(外国人観光客)でオーバーツーリズム(観光公害)が問題になっています。オーバーツーリズムに対する対策は、東京の渋谷区のように自治体が中心になって、街頭での飲酒を禁止する条例をつくるなど規制強化策がありますが、最近、議論になっているのが国内で『二重価格』を導入する動きです。具体的には、国内の施設の参観料やレストランの食事代に、日本人の客と海外からの観光客との間で差をつけることです。私はかつて、1970年代に中国を訪問したときに、当時の中国で実施されていた『三重価格』を経験しました。『三重価格』は、自国人と外国人の他に、『香港・マカオ同胞』の三種類でした。まだ中国が貧しく、香港やマカオは中国に復帰していませんでしたから、こうした分区別が行われてきたのでしょう。
現在の日本で話題になっている『二重価格』は、世界文化遺産・国宝の姫路城の入場料を、外国人観光客と日本人客の間で差を設けることです。6月末時点でまだ実現はしていませんが、姫路市長は『二重価格』導入に前向きな考えを明かしています。また東京都内の居酒屋では、日本語の分からない外国人観光客に、別料金を設定している店もあると聞いています。
こうした『二重価格』の導入は、オーバーツーリズムに迷惑を被っている日本人には概して好評のようですが、高い料金を請求される外国人の評判は悪いようです。外国人の主張は「同じサービスや料理の提供を受けて、国籍や人種によって差別するのはけしからん」ということで、たしかに、公的な施設などで入場料に差をつけることは「人種差別」との批判を受ける可能性があります。加えて、日本はまがりなりにもG7メンバーの経済先進国です。発展途上の国ならまだしも、日本が『二重価格』を採用する国になることには国際世論の反発も考えられます。
2024年5月には、ついに一か月の訪日外国人の数が300万人を超え、今年は3500万人程度の外国人観光客が訪日することが確実視されていて、これら海外からの観光客が国内で消費する金額は推計7・2兆円になるといわれています。この額は、住宅リフォーム業の市場規模(2022年7・3兆円)とほぼ同じです。今や海外観光客の日本国内での消費は、日本経済の成長に欠かすことができない存在です。
世界の批判を回避して民間企業が『二重価格』を導入するには、はやりサービスや料理の内容を外国人と日本人で変えることが必要になるでしょう。これまでになかった高価格帯を設けて、そうしたサービスや物品を外国人が購入することになれば、「人種差別」の批判は免れます。
国ができるオーバーツーリズム対策としては、現在1人1000円の『出国税』(国際観光旅客税)を増税することが考えられます。ちなみにこの『出国税』の税額は2019年1月の導入時から変わっていません。2024年度の予算では440億円の税収見込みとなっています。ちなみにオーストラリアでは60AUD(約6400円)、イギリスは距離と搭乗クラスによって異なり13~156£(約2500円~30000円)となっていて、日本の税額は国際的に決して高い額ではありません。この税金は、日本を出国する日本人にもかかりますが、昨今の海外旅行者の数を考えると、『出国税』を負担する割合は外国人がおよそ7割弱、日本人が3割強となっています。