月刊 小品文 (海江田万里の政経ダイアリー)

2024年9月号

立憲民主党代表選・自民党総裁選を終えて

27日に行われた自民党総裁選の決戦投票で石破茂氏に投票した自民党の代議士にその理由を聞いたところ、「立憲民主党の代表が野田佳彦氏になったから」との答えが即座に返ってきました。「そう考えたのは自分だけでなく、多くの代議士も同じ考えだった結果だ」と付け加えましたが、この考えにはうなずけるところがあります。両党の党首選が終われば、すぐに解散総選挙が行われることは必至の状況で、その場合、党首同士の論戦の場面が必ずあります。高市早苗氏の主張は明確ですが、論戦となると安定性に欠けるきらいがあります。その点、安定した論戦力がある石破茂氏を総裁にしたほうが総選挙に有利と多くの代議士が考えたのは何の不思議もありません。

加えて、自民党の議員は裏金疑惑に関与したかどうかに係わらず多くの議員が来るべき総選挙では、党全体が反省している姿勢をアピールしたかったはずです。その為には、推薦人に多くの旧安倍派の議員が名を連ね、総裁選の最中も、裏金問題に口を噤んだままの高市代議士では、野党の攻勢に堪えられないと考えた結果でもあるでしょう。かつて田中角栄氏がロッキード事件で退任に追い込まれたあとの総裁選で、「クリーン三木」といわれた三木武夫氏を総裁に選んだときとよく似ています。

今後のスケジュールは10月1日の臨時国会召集日を控え、すでに自民党の幹事長、政調会長、国対委員長の指名を終え、10月1日の本会議で石破茂代議士が第102代の内閣総理大臣に指名されると直ちに組閣に入り、4日までに施政方針演説を行います。その後衆参本会議での代表質問があり、従来の前例では予算委員会での質疑となりますが、予算委員会の質疑は行わず、石破総理と野田代表ががっぷり四つに勝負をかけた党首討論が行なわれ、その直後に解散となる可能性が高くなっています。憲法第54条の規定では解散が行われてから40日以内の総選挙が決まっており、最短で10月9日解散、15日公示、27日投開票になる可能性が大きいと考えられます。11月3日の可能性も当初ありましたが、3日は3連休の中日で、投票場となる小学校などで秋の学校行事が予定されていて、今から行事の変更は難しい事情もあり、3日投開票の線は消えました。

総選挙の争点については、現在与野党とも大急ぎで選挙公約を取りまとめる作業に入っています。もちろん、統一教会問題や裏金疑惑の解明、今後の再発防止策についても大きな争点になりますが、物価高に苦しむ国民の最大の経済、特に暮らしの問題に国民の共感を得られる政策を打ち出せるかです。石破茂新総裁は総裁選で憲法や安全保障についての考え方を強く主張していましたが、経済政策については手薄な印象があります。実際、株式市場や為替市場では石破総理の誕生が確実視されると日経平均株価は、1日に1900円も値下がりし、為替は円高に振れました。長い目で見ると、円高は輸入物価の引き下げにつながり、決して悪いことではありませんが、人々の関心は株価の下落に向けられ、石破政権の経済運営は頼りないとの印象を国民に与えます。

私は、来年の通常国会で大きな問題になる年金の問題、さらに若者の手取りを少なくしている社会保険料の問題、それに格差を生んでいる税制について、与野党で選挙戦を通じてしっかり議論していくべきと考えています。立憲民主党は、これらの政策についてはすでに具体的な提案を行っています。

総選挙後のことを考えると、党内基盤が弱い石破茂総裁が、どこまで自分の政策を実行できるか?むしろ党内の抵抗にあって、考えを変える可能性があります。すでに国会の冒頭解散についても森山幹事長の強い進言に従ったとの説があります。田中内閣のあとの三木内閣は、結局「三木おろし」に遭い短命内閣に終わっています。その轍を踏まない覚悟と実行力が石破内閣にあるのかどうか、そのことも考えて国民は選挙に臨むべきでしょう。

「選挙を終えて」2024年11月

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