月刊 小品文 (海江田万里の政経ダイアリー)

2025年6月2日号

年金法改正の内容

5月30日の衆議院本会議で、「国民年金改革法」が自民党・公明党・立憲民主党三党の賛成で衆議院を通過しました。当初の自公案では、短時間労働や小規模企業で働く人々を厚生年金の加入者にすることと、働きながら年金を受給できる「在職老齢年金」の支給停止収入を62万円以上にすることなどが含まれた法案でした。

これに対して、立憲民主党は、この法改正では、肝心の将来世代の年金額が減ってしまうことへの対策が不十分として、「あんこの入ってないアンパン」と批判して、年金額を増やす内容の修正を自公に求めました。そもそも、この年金額を増やす内容は、当初政府が提案した年金法の改正案の中には入っていました。

ところが、その具体的な手法が厚生年金の積立金の一部を基礎年金部分に回すことと、その結果、将来一部の年金受給者の年金額が将来減る可能性があることから、これでは参議院選挙を戦えないとの理由で自公(特に自民党)が反対して、今回の改正案から抜けてしまったのです。

現在、厚生年金は女性と高齢者の加入者が増加したことで財政がこれまでになく安定しています。その上、積立金の運用も株価の上昇などにより多額の積立金が積みあがっています。こうしたことから、余裕のある厚生年金の積立金を、財政が厳しい基礎年金に回すことは、さほど問題のないことだと考えられます。

しかも基礎年金はサラリーマンの厚生年金加入者も一階部分で加入しているのですから、厚生年金加入者にとっても将来の年金額が増えることにつながります。

実際に受け取る年金額は、年金の加入期間や払った保険料によっても異なりますが、厚生労働省の試算では、将来の実質成長率がゼロと仮定して、現在62歳以下の男性、66歳以下の女性は将来受け取る年金額が、現行制度より増額になり、それ以上の年齢の人の年金額は少なくなる可能性があります。

もちろん、年金額が少なくなる人々に対しては別途、給付措置をとることも修正案に盛り込んでありますから、その点は心配しなくていいと思います。ただし、問題は給付措置をとる場合、その財源はどうするのか。また基礎年金を底上げした場合、基礎年金の財源の半分は国庫負担つまり税金で支出しますから、その財源をどうするのかの問題が残ります。

基礎年金の底上げ分の国庫負担の増額は2070年度で2・7兆円(現在の価値で)と厚労省は試算していますが、今回の国会の議論では、この問題は先送りされました。

さらに、この改正が実際に行われるかどうかは、4年後の年金の財政検証の結果を見て判断することになります。年金制度は5年ごとに基礎年金、厚生年金(報酬比例部分)の財政状況を検証することになっています。今回の法改正も昨年の財政検証を踏まえて行われたもので、次回の検証の結果、これまで以上に基礎年金の給付水準が低くなる場合に、今回の是正措置を実行するということです。

財政検証には今後の経済の成長率なども影響を与えますが、人口構造の予測などから、基礎年金の給付水準が大幅に上向く可能性は低いと考えられることから、今のうちに手当てしておこうと、今回の改正に至ったのです。

これから参議院での議論が始まりますが、参議院での議論を通じて、改正の内容がさらに多くの人々に理解されることが必要です。

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