今回の「政変」のすべては9月23日に行われた立憲民主党の代表選挙から始まりました。この臨時党大会で野田佳彦氏が立憲民主党の代表に選ばれたことが、翌週の自民党の総裁選挙に影響を与えたと考えられます。それまで一般党員や国会議員の中で高い人気を得ていた小泉進次郎代議士では論戦力のある野田佳彦立憲民主党新代表には勝てないと、急速に人気を落とすことになり、結果的に石破茂総裁誕生の道筋ができたと思われます。
石破茂代議士の売りは「党内野党で歯に衣着せずに正論を吐く」ことでしたから、彼ならうまく裏金批判をかわし、自民党のお家芸であった「擬似政権交代」が可能と考えた議員が決選投票で石破候補支持に流れたことは事実です。たしかに、これまでロッキード事件後の三木武夫、リクルート事件後の海部俊樹(一時的に宇野宗介氏)両氏の登場にとって、自民党は政権の座を失うことはありませんでした。
しかし、こうした30年、40年前の自民党総裁選びと現在では様相が一変しています。ロッキード事件後の三木武夫総裁への転換は、有名な「椎名裁定」に因るものでしたし、リクルート事件後の宇野、海部新総裁への流れは、陰然たる権力を持った竹下登氏の指名で、いずれも密室における話し合いで決まったものでした。
現在の総裁選挙は一般党員、ひいては国民に向かって開かれた選挙で、約1か月にわたって連日マスコミが候補者の発言を報じていました。石破茂新総裁は、今ごろ「総裁選挙中言いたいことを言い過ぎた」とほぞを噛んでいることと思われますが、自身の発言が国民の人気を煽る結果となり、それが「選挙の顔」を探していた国会議員の票を集めたわけですから、「自業自得」と言わざるを得ません。
かつての小泉旋風では小泉総裁は、「郵政民営化」という看板政策を掲げて総裁選挙で勝利しました。もちろん、当時の自民党内では「郵政民営化」に反対する議員もたくさんいましたが、「郵政民営化」という政策に賛同する議員が小泉氏を支持して、小泉氏は新総裁に就任しました。
石破茂新総裁も、「アジア版NATOの創設」、「日米地位協定の見直し」など独自の政策を掲げましたが、それらの政策を理解し、支持する議員はほとんどおらず、結局「選挙の顔」になるのならと、石破茂氏に総理の座を渡し、自分たちの運命を託すことになりました。
とにもかくにも石破茂新総理は誕生しました。最大の失敗は予算委員会を開かずに選挙を急いだことです。予算委員会が開かれれば、野党も「政治とカネ」ばかりでなく、現在の日本が抱えている経済や外交・安全保障の問題をはじめとして、さまざまな問題点を追及したはずです。そしてそれぞれの課題について、自民党も党の政策を主張して、それが選挙の争点になったのです。ところが、予算委員会を完全にスルーしましたから、結局、選挙の争点として残ったのが「政治とカネ」の問題でした。石破茂新総裁が、「これでいける」と考えて発表した裏金議員の公認外しも基準がはっきりしないうえ、小泉郵政選挙のように非公認候補の選挙区に「刺客」を立てることもなく、むしろ選挙の後半になって、非公認の自民党支部長に一律2000万円を配るとあっては、有権者から、「国民をなめている」と思われても弁明ができません。こうしてみると、今回の与党の過半数割れは、石破茂新総裁と彼を選んだ自民党のオウンゴールに他なりません。一方、野党第一党の立憲民主党は、政権交代を果たすにはまだ道のりが長く、険しいことを自覚すべきです。
*出典: 写真は首相官邸ウェブサイトより編集して掲載