月刊 小品文 (海江田万里の政経ダイアリー)

2025年2月27日号

日米首脳会談を振り返る

やや旧聞に属しますが、2月7日(現地時間)の石破総理とトランプ大統領の日米首脳会談を振り返ります。日米首脳会談とその後の共同記者会見の中継を見て、「まるで大企業の社長と中小企業の社長の面談のようだ」と考えました。石破総理は暗殺を免れた大統領を「神に選ばれた人物だ」と讃え、「実際にお目にかかると、本当に誠実な、アメリカや世界に対する強い使命感を持たれた方だということをお世辞抜きに感じた」と、歯の浮くような言葉でトランプ大統領を褒めちぎっていました。

もちろん、最初からけんか腰になる必要はまったくありませんが、日本の最高指導者として、もう少し毅然とした態度を示せなかったものでしょうか。

その後、さまざまな方々と意見交換するうちに、ある人が、「あれは韓信(かんしん)の股くぐりのようなものだ」と解説するのを聞いて、触発される点がありました。「韓信の股くぐり」とは、『史記』の淮陰侯(わいいんこう)列伝に出てくる物語です。淮陰侯とは、漢の建国にあたって武功があった韓信のことで、『史記』に書かれた物語では、韓信が若く無位無官だったころ,町でならず者に侮辱され、「死ぬ覚悟があるなら俺を刺してみろ。それができないのなら俺の股をくぐれ」と挑発されます。

衆人環視の中、韓信は、黙ってならず者の股をくぐると、見物人は韓信のふがいなさに冷たい目を向けます。しかし、のちに韓信が出世すると、人々は「大志のある者は一時的に屈辱を受けても軽はずみな行動をしないものだ」と、その忍耐心を讃えます。

たしかに就任後、ならず者のように振る舞うトランプ大統領に対して、今はじっと堪え忍ぶことも必要かもしれません。その意味では石破総理の態度を軽々に批判することは控えなければなりませんが、石破総理の抱く大志とはいったい何なのだろうかと考えてしまいます。一つは日米の経済摩擦を起こさないことでしょう。トランプ大統領は世界に向かって自動車や半導体に25%の関税をかけることを宣言しています。大統領は、「例外はない」と脅していますが、本当に日本から輸出される自動車にも25%の関税をかけるのか?

日本は米国に例外措置を求めて協議中で、4月2日に結論が出ます。

もう一つの課題は、安全保障上の問題です。日米首脳会談の成果として、インド太平洋地域へのアメリカの引き続きの関与を認めさせたことが共同声明でも明らかになっています。その見返りに、会談でトランプ大統領から日本の防衛費のさらなる増額の話は出なかったのか?2月27日のANNニュースでは、石破総理からアメリカ製のC-17輸送機を購入する話をしたとの情報が流れていますが、会談中どういう流れで、この発言が石破総理から発せられたのかは明かされていません。日米間で日本の防衛費に関して密約がなかったのか?今後の検証が必要です。

そして、石破総理の大志は日米地位協定の見直しだと思います。この大志を実現する気が本当にあるのでしょうか?帰国後の予算委員会でのやり取りを聞いている限り、石破総理が大志を果たす意欲があるかどうかはなはだ疑問です。

中国の歴史のなかの韓信は、その後、楚国の王となりますが、猜疑心の強い漢の高祖(劉邦)により謀反の疑いをかけられ、殺害されます。その晩年は決して恵まれたものではありませんが、現代日本の韓信の運命はどうなるか?まずは4月2日の25%関税から日本が適用除外になるかどうかを注視します。

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