今、永田町で話題の書籍が船橋洋一著、安倍晋三クロニクル『宿命の子』(文藝春秋社刊)です。上下巻合わせて1100ページを超える大作だけに、私もやっと上巻を読み終えたところです。
著者の船橋洋一氏とは、氏が2011年に発災した原発事故を独自に検証する『民間事故調』を立ち上げ、当事者の一人として私が長時間のインタビューに応じて以来の付き合いです。朝日新聞社主筆として調査報道の手法を確立した氏は、本書で国内外の関係者260人を超える人々へのインタビューを通じて、歴史の事実に肉薄しています。現代史の超一級の史料として、これからも長く読み継がれる書籍となると思います。
本書の主役である安倍晋三氏の父は代議士になる前、毎日新聞の政治記者であった時期があり、私の父の下で働いていたこともあり、酔っ払った私の父を、まだ学生だった安倍晋三氏が介抱したことを二人だけになったときに打ち明けてくれました。
安倍晋三氏とは当選同期ではあるものの、政治的な立場は異なり、最後まで交わることはありませんでした。
本書では、2012年に安倍晋三氏が再び、自民党総裁選に立候補する決意を固める場面から筆が起こされています。その後、内閣総理大臣として取り組んだアベノミクス、TPP、平和安全法制、消費税増税などの政策決定の内幕が、当事者の証言によって明かされています。詳しい中身は本書を読んでいただくとして、野党の議員では知ることができなかった政権内の動きがリアルに描かれていて、現在の野党が将来、政権を担う際には参考になる内容に溢れています。
2014年の安倍内閣による消費税増税延期、そして解散総選挙での勝利までの歴史を綴った上巻を読み終え、安倍政治を批判するのは容易だが、超克するには官僚の使い方を含めてまったく新しい政治スタイルを確立しなければならないとつくづく思いました。