月刊 小品文

2024年5月号

企業・団体献金は日本の政治を捻じ曲げる

かつての日本では、代議士を『選良(せんりょう)』と呼ぶことがありました。手元の『広辞苑』(2017年第七版)では、「選良・すぐれた人を選び出すこと。その選ばれた人。特に代議士をいう」との記述があります。しかし、昨今の自民党の裏金疑惑に関係した議員の不誠実な対応と、その後の「政治資金規正法改正」の議論を見るにつけ、今や代議士を『選良』と考える国民はほとんどいないのではないでしょうか。

私は、昨年12月のダイアリーで「政治資金規正法は政治家が善意の人であることを前提にした立てつけになっているが、その前提が崩れた現在、法律も一般の人を規制する『政治資金規制法』にすべき」と主張しましたが、現在の国会の状況は、多数を占める与党にその気がなく、結局、抜本的な改革を行うには、選挙を通じて野党の数を増やすしか方法がないことも事実です。

今日も国会では政治資金改革について与野党の協議が行われていますが、政治資金パーティ改革案、ひとつをとってみても、野党第一党の立憲民主党と自民党の案とでは大きな隔たりがあります。

自民党の改正案は、企業・団体のパーティ券購入はもちろん継続して、購入先の公開基準を現行の20万円から10万円にしようというものです(与党の公明党との協議で公明党が主張する5万円に引き下げられる可能性はあります)。

立憲民主党は、政治資金パーティそのものを廃止しようというのですから、両者に妥協の余地はありません。

立憲民主党の政治資金パーティ廃止論は、空論だとの指摘もありますが、私はそうは思いません。現在の政治資金パーティの券は1枚2万円が標準で、この生活苦の時代に、個人が2万円の券を何枚も購入することはなく、大口の購入先は企業・団体がほとんどです。

そして実際にパーティに参加した人は経験していると思いますが、会場に準備される飲食物はほんの少しで、パーティ券の売り上げに対する会場費などの経費の割合は極めて低くなっています。

現在の政治資金パーティは形を変えた企業・団体献金に他なりません。1993年細川護熙総理が進めた政治改革では、国民一人当たりコーヒー一杯分(当時)250円の負担で政党助成金を創設し、その代わりに、政治家個人への企業・団体献金を廃止するのが、主な内容でした。それがいつの間にか、政治資金パーティが企業・団体献金の受け皿になってしまいました。

企業・団体献金の最大の問題は、それが日本の政治を捻じ曲げてしまうことです。企業への税制上の優遇をはかる租税特別措置を調べると、企業・団体が自民党や議員に対する献金と、政策減税の相関関係が浮かび上がってきます。

立憲民主党が提案した、政治資金パーティの禁止は、施行時期が2026年からとなっています。その間に、個人が政治家に対して献金をしやすくするための、支援策も講じる必要があるからです。現在の税法では、個人が政治団体に寄付をした場合、寄付金控除が受けられ、その年に寄付をした金額と、その年の総所得の40%のどちらか低い金額から2000円を引いた金額が、その年の所得から控除されます。

仮に1万円寄付をした場合、8000円が所得控除になるので、実際に税金が安くなるのは、その人の所得税率が30%なら2000~3000円となります。

寄付金額が1万円程度なら全額が税額控除されるような後押しも必要です(今年の年末までの寄付に対しては税額控除も選択肢になっています)。もっとも政治家の側も、自己研鑽して、多くの個人が政治献金をしたくなるような『選良』にならなければならないことは言うまでもありません。

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